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■さよなら


もきちのきもち  〜ある中学校の保健室にて〜

bP4 さよなら

 1学期の最後の日、廊下を歩いていると2年生の女の子が近づいて来て、静かに言った。「先生、今度転校します。」
 6月の体育祭で38度8分の熱があるのに帰らないと言って困らせてくれた、笑顔のかわいい根性の人。あの日のことを思い起こした。
 その子は、昼過ぎに救護テントにやって来た。私の掃除区域の班の人であり、バスケットボール部の期待の星、体育委員としてクラスをまとめてきた重要人物である。おとなしい眼差しの奥にしっかりした芯を感じさせる生徒である。午前中もすでに無理をしていたらしい。本当はもっと前から。とりあえず保健室のベッドに寝かせ、保護者を呼んだ。母親は娘の姿を見て思わず泣いてしまった。後から来た父親は言葉少なのままそばに立っている。そして、娘は午後の競技に出ると意志を曲げない。その光景は不思議だった。理解に苦しんだ。親がもっと大人として判断をリードすべきではないか。いくらやりたいと言っても相当な高熱だ。普通ならすぐに病院に連れて行くだろう。学校としても必死で止めた。私はその親子の様子が、全く腑に落ちなかった。
 結局、その子は午後の3つの競技のうち、最後の一つに参加した。クラス全員で戦うリレーのために起き上がり、グランドに出て行った。グングン抜いて完走した「根性娘」の颯爽としたフォーム。終わるとテントに戻って来て、またかわいい笑顔を見せる。「先生、走ってきました。」高熱のままで。
 熱い体育祭の後、転勤族の家庭に生まれたその子が「すでに単身赴任している父親についていくかどうか」を決定するという重責を担っていたことを知る。体育祭の前夜も、体育祭を観戦するために戻ってきた父親と夜遅くまで話し合っていたらしい。「最後になるかもしれない。」という気持ちからのことだとやっとわかった。母親の涙、青白い顔の父親の無言の姿、異様な空気の意味も。
 その子は夏休みに入ってすぐの林間学校に参加して、また引っ越すという。「あなたはまだ中学生だから、お父さんやお母さんと一緒に暮らすのがいいと思っていたよ。また新しい友達ができるってことね。」そういって、私は頭を撫でた。上品なその子が、ホウキを持ってせっせっと床を掃く後ろ姿が思い出される。どこに行っても笑顔と根性で乗り切っていくことだろう。・・・さよなら。

(もきち)



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