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■忘れていたこと


もきちのきもち  〜ある中学校の保健室にて〜

bW 忘れていたこと

 桜の花びらが舞い落ちる正門を、何度も何度も行き来しているうちに時は流れていった。気がつくと百花繚乱。 仕事に追われがちなシーズンだが、見廻すと景色は楽しいものに変化している。
 この春、ひときわ私の眼に入るのはハナミズキである。薄い紅、濃い白。おめでたい感じの花があちこちの 高いところで咲いている。その花たちを見上げていたら、忘れていたことを思い出した。

 昨年の夏、中庭にあった薄い紅のハナミズキが切り倒された。体育館の脇で、静かに長いこと生きていた あの一本の木。夏休みのある日、何気なく窓の外を見た時にはすでにやられた後、無残な姿だった。そこに、 念願の給食室が建つことは知っていたが、あの木がそんなふうにされるとは思ってもいなかった。あまりに 悲しい姿に眼をそらしたくなった。
 体育館の渡り廊下をコトコト行くと、いつもそこに辿り着く。その木は、春になると元気な葉を茂らせ、 太陽の下でたくさんの花を咲かせた。秋になると少しずつ葉を落とし、朱色の美しい実でお色直しをした。 雨に打たれ、風に吹かれ、雪を抱えてそこにいた。そのせつない雰囲気がたまらなく好きだった。あの場所で、 子ども達を見守っていた。子ども達の声を聴いていた。先生に叱られて、友達とけんかして、力の足りなさを 身にしみて、孤独な気持ちにおそわれて・・・。心細くなった時、その木は黙ってそばにいたはずだ。
 もう何ヶ月も前に姿を消したハナミズキ。その花が咲く頃となった今、またあなたのことを思い出す。実は、 花は、葉は、枝は、一つの幹につながり、見えない根にいのちを託していた。もしかして、その根は生きて いるんじゃないかと考えてみたりした。文句も言わず、ひとつの使命を終わらせたハナミズキに涙が出る。 何があっても、黙って耐える親みたいな気持ちなの?
 給食室は完成し、この4月からそこで作られた美味しい給食を食べている。 私のことは気にしないでと言われているような気がしてならない。

 あのハナミズキのことを忘れない。同じ思いでいる人が、学校の中にいるにちがいない。

(もきち)







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