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出張見聞記(3) 社員を誇る会社 (2003/12/30)


知人の家に初めて招待され家に入らせてもらう時には、いろいろ回りを見てしまうものである。玄関の下駄箱の上の置物、部屋の壁にある絵や掛け軸、本棚の本や家族の写真などなど。関心があるからなのであって、決して特に変に詮索するつもりなのではない。それは何か新しい話題を作るため、誉めるものはないかという知恵でもある。

出張で相手方のオフィスを訪れるときにもやはり同じようなのである。玄関に飾ってあるもの、掲示物など失礼にならない程度にまで見て読んでしまうのである。それは相手方をよく研究し知るということもあるが、何かそこから相手が夢中になって話したくなるような話題となるものはないかと思ってでもある。

米国のある機器のメーカーのオフィスを訪れた。年配のいかにも紳士風の方が我々に対応してくれた。一通りの打ち合わせを終え、デモルームを見学させてもらうことになった。部屋のドアは高さが天井までもあろうかという大きいもので、幅も日本のものよりは大きい。その重い木の扉を押して廊下に出た。しばらく歩くと、何か小さなプレートがたくさん飾ってあった。見ると、「FIRST UNIT SALE U.S.A」と書いてある。その下に、機種のモデル名とその写真、そして米国で最初に売った自社のセールスマンの名前が書いてあった。1台1億以上もする機器である。そう簡単に売れるものでも、買い換えるものでもない。木の枠を伴った金属のプレートに刻む価値もあろうと納得した。

それとわかってすぐ、今我々と一緒の担当の方の名前を探した。もう一線を退いて居られるだろう年齢に見えたので、年代順に並べてあるそのプレートの昔のほうを探してみた。どこなかと見ていたらここにありますと彼のほうから教えてくれた。今はもう廃版になってはいるがその機種の米国での最初の販売は、彼自身やはり誇りなのだろう。苦労話をしてくれる。

昔はこのようにセールスマンを称えるプレートはなかったそうだ。ユーザーと長い信頼関係を築いて初めて受注にこぎ着けられる製品を販売し、一度納めたら10年は使う性格のものである。価格競争も激しい中、10年後まで信頼関係を持続させることも簡単ではないそうだ。その持続力を励ますためにこのようなことを始めたと説明してくれた。

なるほどと言いながら、もう少し歩いていくと今度は白い書類が入った額が飾ってあった。見ると公開されている特許である。このメーカーが出しているものの一部だという。技術が売り物であるメーカーらしい掲示物である。少し目を遣っていたら、これが私の特許ですといって担当の方が指差してくれた。確かに彼の名前が書いてある。昔から営業一筋かと思っていたら、驚いたことに若いときにはエンジニアだったという。「おそれいりました」と言いたかったがピンポイントの英訳が見つからず、大変びっくりしましたとだけ伝えた。

会議室を出て、デモルームまでの短い時間が会話で埋まった。会話を通じて、担当の彼はビジネスの表情から、知人を招待した時の表情に変わったように見えた。

社内で社員を表彰するというようなことは通常は内部だけで行うものだ。それを顧客の目に付くところに掲示するということを最初は少し奇異に感じたが、少し見ているといやな気持ちにはならないものだということがわかった。むしろ、そのことが顧客へのサービスに努める一環として見え気持ちよく、暖かささえ感じられた。

(wa)





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